◎シリーズ 私の趣味・生きがい 1

週末は稲つくりを楽しむ

横田不二子(野方・昭和44年文)

週末になると田舎に行って農作業。そんな生活をもう8年も続けているという横田産。自然にふれあう楽しさ、素晴らしさを書いて頂きました。

◎祖母の勧めで早稲田に

 私は中野区の野方に生まれ育ち、早稲田の文学部へは自宅から通いました。早稲田を受験することになったのは、落語好きの祖母が、学生野球も座布団を持って神宮球場に通うほど好きで、早稲田を応援していたからです。早稲田が優勝したときの提灯行列をとても楽しみにしていました。だから「大学をいくなら早稲田がいいねぇ、早慶戦も応援のしがいがある、うちからも近い」と、口癖のように行っていました。母は地元の六中、四中で国語を教えていて、娘の進路に関しては本人がよければ、という人。私が浪人したいと言ったら、黙って予備校の学費を出してくれました。そんな祖母も母も今は亡く、現在私は二十歳になる娘とふたりで、相も変わらず野方の地に暮らしています。

◎田んぼの魅力って?

 その野方から、私は週末になると小型乗用車で(昨年夏までは軽トラックで)脱出するのです。行く先は茨城県の八郷町。外環から三郷で常磐道に入り、土浦北ICで降り、部原という部落まで。我が家からざっと二時間半くらいかかります。そこで、私は五畝(畳三百枚分)の田んぼを借り、稲作りをしているのです。それがもう今年で九年目。「東京生まれのあなたが、また何で田んぼなんかやっているの?」「自分の食べる分、収穫できるの?」「美味しいの?」「田植えや草取りで腰が痛くならない?」「お米なんて、買ったほうが安いでしょうに」……。田んぼと言うと、誰もが矢継ぎ早に聞いてきます。う〜ん、田んぼの魅力って何でしょうか。
 私が一番好きなのは、田植え後、週末ごとにがらりがらりと、ダイナミックに変身していく稲の姿です。小さな稲が扇型に開き、さらに円を描くように茎が増え、丈もぐんぐん伸びて、一五〇センチほどにもなり、株間を、畝間を埋めていきます。その力強さといったら!
 八月の始めごろには苗が出て、小さな白い花を咲かせ、それから穂が垂れ、しだいに黄色く色づいていくのです。田んぼは、田植えから収穫まで四カ月間のドラマ。このハラハラするドラマの成り行きが応えられないんですね。そして稲づくりの喜びが、自分で手塩にかけたお米を食べられることにあるのは、言うまでもありません。

◎一年間のスケジュール

 さて、私の田んぼの一年をざっとご紹介しましょう。田植えの日取りは年によって違いますが、毎年だいたい五月の第三週ころです。田植えになわせて苗づくり。私は手植え用に、昔ながらの折衷苗代で四〇日以上かけて大きく育てています。ですから苗代への種まきは四月の第一週。さらにその一カ月前に種モミの選別や水浸しをするので、三月の初旬のまだ寒さの残るころに、田んぼの作業はスタートします。
 水田の準備は、ゴールデンウィークに集中的にやっています。たとえば畦を作ったり、レンゲを刈ったりする作業です。レンゲは肥料となるだけでなく、タイミングよく刈って水を入れると、初期の除草もしてくれるスグレモノ。可憐な花でお花見も楽しめるし。
 田植えには、友人たちが助っ人にかけつけてくれます。にぎやかな田植えが終わると、あとはまた、ひとり。週末には、畦の草刈りや水漏れのチェック、田の草を拾う、追肥などをコツコツとこなしてきいます。初夏の田んぼは、ぐんぐん育つ稲とトンボやクモやザリガニなど、さまざまの小動物たちの天国。作業も一段落です。九月の稲刈りの予定は、天気予報とにらめっこで決めます。再び友人たちが集まって手刈り。刈ったらオダにかけて昔ながらの天日干し。二週間ほど干して脱穀。そしてモミすり。十月の半ばころ、ようやくその年のお米作りは完了です。あとは皆んなで新米を味わう収穫祭が待つのみ。

◎究極のガーデニング

 この二月に、これまでの稲つくりの体験を一冊の本にまとめました。題して『週末の手植え稲つくり』〔農山漁村文化協会)。私の八年間がぎっしり詰まった本です。これから田んぼをやってみたいという人にすぐ役立つよう、できるだけ具体的に書いたつもりです。
 春にまいたひと粒の種モミが、秋には二千粒もの恵みとなってくれる感動は、都市生活をしているだけでは決して味わうことができないものです。いまは、季節の美しい花々を育てるイングリッシュ・ガーデンが大人気ですが、家庭菜園など生活型の園芸を楽しむ人も増えていると聞きます。田んぼはまだ少し敷居が高いかもしれませんが、家族や友人たちと田舎に繰り出し、田んぼで汗を流し、苗づくりや除草をどう工夫しようかと知恵を出し合うのも、なかなか楽しいものですよ。
 二十一世紀は、圃場整理された大きい田んぼはプロの農家が機械で耕し、機械の入りにくい棚田や谷津田などは都市の人々がにぎやかに手づくりする、そんな光景があちこちで見られるようになるのでは。稲つくりは、究極のガーデニングだと私は思っています。



今年の田植えは5月21日。若い人が中心で植えた。

稲刈りを待つばかりの黄金色に実った稲(99年)。

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