編集後記

「傘の持ち方」


 今度のテーマは何にしようかと歩きながら考えていた。私の周囲は会社へ急ぐ通勤者が三々五々歩を早めている。まだ、ラッシュアワーに大分間がある早朝だった。背後から「傘を上へ向けて歩くと危ないじゃないか!」
 声の主は頑丈そうな丸坊主刈りのオジサンさんだった。私のしている行為は、左手に重い鞄をもち、右肩に兵隊が銃を担ぐようなしぐさをしていたのだ。周囲は注意を促した人と他にふたり前を歩いていたぐらいである。周囲が空いていたので、別に危険な行為と思っていなかったので、咄嗟に出た言葉が「(傘を)振り回すよりいいじゃないか」で、「ありがとう」がでなかった。「それはそうだが、でも危ない」とにらみつけられた。当方は誰もいないと思って肩に担いだのだが。それから、相手は私の行為をたしなめながら、左にそれていった。傘の先端を上に向けたのは意図してしたわけではない。うかつで、不覚だった。余計なお節介? と受け止めるべきか、複雑な心境だった。声の主は相手を見て発した言葉なのか、自信を持って注意したのか、若者だったら、と考え込んでしまった。駅や人ごみの中での階段の昇降では、後ろにいる人を気遣うことは誰でもが知っている。場所柄、下町だったからか、他者を注意する勇気を誉めるのか複雑な気持ちだった。でも、考えていたテーマが決まったことは確かだった。(岩井)

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